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名古屋高等裁判所 昭和53年(行コ)14号 判決

控訴人(附帯被控訴人、以下「控訴人」という。)

加藤千代子

右訴訟代理人

天野雅光

被控訴人(附帯控訴人、以下「被控訴人」という。)

右代表者法務大臣

奏野章

右指定代理人

山野井勇作

外七名

主文

一  控訴人の控訴および被控訴人の附帯控訴に基づき、原判決(昭和五三年六月二一日付更正決定を含む。)を左のとおり変更する。

二  被控訴人は控訴人に対し、金一四、九四四、四二一円およびこれに対する昭和四二年一二月二九日から完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

三  控訴人のその余の金員請求(当審における拡張請求を含む。)を棄却する。

四  控訴人の裁決変更の訴を却下する。

五  訴訟費用は第一、二審を通じてこれを五分し、その四を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とする。

事実

第一  当事者の求めた判決

(控訴人)

一控訴の趣旨(請求の拡張を含む。)

1 原判決を左のとおり変更する。

2 愛知県収用委員会が昭和四二年一二月二〇日付でなした控訴人の本件土地占用許可の取消に伴う損失補償額を金七、六三三、六九九円とする裁決を金五二、六七六、四三七円と変更する。

3 被控訴人は控訴人に対し、金四五、〇四二、七三八円およびこれに対する昭和四二年一二月二九日から完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

4 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

5 第3項につき仮執行の宣言。

二附帯控訴の趣旨に対する答弁

本件附帯控訴を棄却する。

(被控訴人)

一控訴の趣旨に対する答弁

1 本件控訴及び当審における拡張請求を棄却する。

2 控訴費用は控訴人の負担とする。

3 仮執行免脱の宣言。

二附帯控訴の趣旨

1 原判決中、被控訴人敗訴の部分を取消す。

2 控訴人の請求をいずれも棄却する。

3 訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

第二  当事者双方の主張及び証拠の関係

次に記載するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する(但し、原判決四枚目表末行に「土地収用法」とある次に「(昭和二六年法律第二一九号。但し、昭和四二年法律第七四号による改正前のもの。以下同じ。)」と挿入し、同一一枚目表五行目に「同三3」とあるのを「同三4」と訂正する。)。

なお、以下においては、法令等につき、左記のような略語を用いることとする。

○河川法(明治二九年法律第七一号。昭和四〇年四月一日廃止)→旧河川法

○河川法施行規程(明治二九年勅令第二三六号。右と同時廃止)→旧河川法施行規程

○明治三五年三月二八日土甲一三号各地方長官宛土木局長通牒(乙第三一号証)→明治三五年土木局長通牒

○土地収用法(昭和二六年法律第二一九号。但し、昭和四二年法律第七四号による改正前のもの。)→土地収用法

○公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱(昭和三七年六月一九日閣議決定)(乙第五八号証)→一般補償基準

○建設省の直轄の公共事業の施行に伴う損失補償基準(昭和三八年三月二〇日建設省訓第五号)(乙第六〇号証)→建設省補償基準

○公共事業の施行に伴う公共補償基準要綱(昭和四二年二月二一日閣議決定)(乙第三二号証)→公共事業補償基準

○なお、以下において「堤防」とは、本件輪中堤の環状堤部分のうち、その西側の占用許可取消の対象部分(別紙略図―以下単に「略図」という―Cの部分)を指すのを本則とするが、広義には、右環状堤の全体、或いは環状堤全体と突出堤全体を合わせた輪中堤そのものを指すこともある。

一  控訴人の当審における主張

1 堤防(略図C部分)敷地の補償金額について

控訴人は、右につき、原審において、(一)昭和三九年七月地元民と被控訴人の間で福原地区の田畑が坪当り一、三〇〇円で取引されていること、(二)昭和四〇年一月控訴人と被控訴人の間で本件堤防同様の公共施設である福原地区の用排水施設の敷地(略図参照)が坪当たり二、五〇〇円で取引されていること、(三)昭和四三年一二月本件福原地区に近接する三重県長島町松之木地区の土地が坪当り五、〇〇〇円で取引されていること等を根拠にして、右価格を坪当り三、〇〇〇円と主張したが、右(三)の事例の所在地は原判決が誤認したよりは北方、即ち本件福原地区に近いのであるから、右(三)の事例も充分考慮に入れられるべきである。

ところで、その後昭和五三年一二月、水資源開発公団が本件福原地区の田などを坪当り二一、四五〇円で買収したが、この事例は、公共機関と私人間の取引であること、右の額には近傍の前記松之木地区の取引価格も織り込まれていると推認されることから、これと、前記三取引のうち松之木地区を除いた福原地区内の二取引とを比較することにより、本件福原地区の地価の確実な動向を見定めることができる。よつて、次の諸点を考慮しつつ、本件裁決時の堤防敷地の価格を算定すると、別表のとおりである。即ち、数年間にわたる地価の上昇について検討する方法としては、毎年ほぼ同額ずつ変動する定額法と毎年ほぼ同率で変動する定率法とがあるが、双方で算定し、それを平均したものがより実勢に近いものと考える。又、昭和三九年の取引と昭和五三年の取引事例は同種土地の取引であるが、昭和四〇年の用排水施設敷地と昭和五三年の田畑の取引とは土地の種別が違うので、後者については同種土地に換算するため三〇パーセントの減額をした。そして、右試算によると、本件裁決時たる昭和四二年一二月現在における本件福原地区の堤防敷地の価格は四、三八〇円、農地価格は四、三〇〇円となり、更に後者に三〇パーセントの減額を施しても三、〇一〇円となり、いずれにしても本件請求額三、〇〇〇円を上廻ることになるのである。なお、右請求額には充たないが、不動産鑑定士山田幸正が本件堤防敷地の補償金額を坪当り二、八三三円としていること(甲第五〇号証)も考慮されるべきである。

以上に対し、被控訴人は、まず(一)原判決別表(一)などのように昭和三八年三月に三重県木曽岬村の堤防敷地を坪当り二〇〇円で買収したと称し、これに時点修正等を加えると坪当り二四七円になると主張する。しかし、右事例地はいずれも偶然地目が堤敷となつているだけで、大部分の現況は宅地、田畑や雑種地であつたものと推定されるのみならず、その大部分について廃川敷地が代替地として交付されており、このような代替地提供の事情が織り込まれた買収価格は通常の取引価格とはいえず、又、仮に堤防敷地としても、右はいずれも何処にどういう状況であつたかも不明のものであつて、形式上その所有権移転登記をなす必要から、いわゆる「はんつき料」として前記金員が支払われたものと推定される(原審において、控訴人は右土地の位置、形状を明らかにするよう釈明を求めたが、今日まで明らかにされていない。このように位置、形状も明らかでないものは、本件堤防敷地の補償額算定についての適切な取引事例たりえない。)。又、(二)昭和四〇年一月福原地区の山林、原野を坪当り三〇〇円及び二七五円で控訴人から買収したと称し、右三〇〇円に価格変動率1.048を乗ずると坪当り314円になると主張する。しかしながら、右買収は、当時たまたま控訴人所有名義の山林、原野が登記簿に発見され、その現在は何処にあるかも判明しなかつたが、登記整理上この所有名義を被控訴人に移す必要があるとして、その際いわゆる「はんつき料」として右の額を控訴人が受取つたに過ぎないもので、このような実態のもとでの買収価格は本件堤防敷地の補償額算定の参考にはならない。更に、(三)昭和三九年から同四〇年にかけて本件福原地区において買収された田畑につき、その坪当り一、三〇〇円の買収価格を本件裁決時の期間まで、1.214の係数で時点修正すると坪当り一、五七八円になるとし、更にこれより私道減価率と同率の八〇パーセントを減価すると坪当り三一五円になると主張する。しかしながら、当時右の用地買収については、売渡者に対し改修工事により生じた廃川敷地を低額で払下げるとの約定がなされ、関係者全員通常価格より相当低い額で買収に応じたものであり、又、福原地区の右期間における土地価格上昇率は1.214より遥かに大であるし、私道なみの減価率を適用することは堤防の如き公共施設が収益や取引に無関係なことからしても誤つている。いずれにせよ、被控訴人主張の事例はいずれも本件に適切でない。

なお、被控訴人は昭和四〇年一月の控訴人と被控訴人間の用排水施設の敷地の取引につき、同敷地は宅地の形状をしていたとか、宅地として取引をした旨主張するが、事実に反する。右敷地の大部分は、用排水樋管、貯水槽、ポンプアップ施設、用排水路など、本件堤防と同様、公共的な用排水施設の敷地であり、さればこそ、甲第四〇号証の如き覚書を当事者が交換しているのである。もし宅地としての取引ならば、かかる覚書をかわす必要はない。事実、被控訴人は本件福原地区の改修工事に際し、工事区域内の宅地についてはすべて木曽川堤防沿いに新しい宅地を造成し、それを旧宅地所有者に引渡しており、当時右敷地が宅地として扱われたというのであれば、その対価は、金銭ではなく、右代替宅地が造成され引渡されていた筈である。

2 山林・原野(略図F・G部分)の補償金額について

右土地が堤外地で年数回冠水すること、農地としての収益性に乏しいこと等を考慮すると、本件堤防敷地の価格より五〇パーセント減額した坪当り一、五〇〇円の請求額が相当である。

3 荒地(略図H1、2部分)の補償金額について

前記山林、原野について認められる事情のほかに、満潮時にはその相当部分が冠水する等の事情を考慮すれば、原判決認定のとおり坪当り九四五円で相当である(右につき従前控訴人はこれを坪当り七五〇円と主張していたが、右のとおり改める。)。

4  堤防の工作物価値の補償について

本件堤防については、その敷地のほか、その堤体自体についても、これを独立した物件とみて補償すべきことは従前主張のとおりであるが、なお主張を附加するに、現行河川法の施行法一九条によりなお効力を有する旧河川法施行規程一〇条は、その補償金下付の対象を同規程九条にいう河川の「敷地」と定めているところ、旧河川法四条二項によると、堤防等で河川附属物の認定を受けたもの(本件堤防も然り)は「総テ河川ニ関スル規程ニ従フ」と定められているから、一見右堤防についてもその「敷地」のみが補償対象になるかの如く見えるけれども、私権の対象とならない流水をその上部に有する河川敷地と異り、堤防はいずれも私権の対象となる堤体と敷地とが、しかも一体となつて初めて堤防たりうるのであるから、右施行規程一〇条を堤防に適用する際には、同条にいう「河川ノ敷地」に該るものは「堤防全体」即ち堤体とその敷地の双方をいうことは明らかである(なお、被控訴人は愛知県河川管理規則(昭和二九年愛知県規則第五九号)一七条の様式第一号及び第二号について、従前の所有者以外の者に対する場合は「河川附属物占用」の語を用い(様式第一号)、前記施行規程九条による場合「河川附属物の認定地占用」(様式第二号)と用語を区別している旨主張するが、右「河川附属物の認定地占用」とは「認定により私権消滅した河川附属物の占用」と解するのが相当である。)。

しかして、上記の如く旧河川法施行規程一〇条の補償対象たる堤体は、正しく明治三五年土木局長通牒にいう「地上ニ現存スル物件」でもあるところ、被控訴人は、右通牒にいう物件は旧河川法一七条所定の工作物をいうと主張するが、同条は旧所有者以外の占用者の工作物設置等に関する規定であつて、右通牒にいう物件は、同条の工作物とは関わりのないものである。

更に土地収用法との関係で、被控訴人は本件堤防(堤体)の非独立性を云々するが、民法八六条にいう「(土地の)定着物」の概念についても、必ずしもこれを建物の如く独立性の明確なものに限らず、広義には土地の一部を成しても、未だ完全に土地の構成要素と化していない有体物(いわゆる附加物)については、これをも右定着物の概念に包含せしめるのが通常であることをも考慮に入れると、土地収用法六条にいう「土地に定着する物件」には本件堤防の如き物件も含まれるべく、又、被控訴人は堤防の移転性なきことよりその独立物件性を否定するが、土地収用法をみるも、同法七七条の「(土地にある)物件」につき、同法七八条等によると、その中に移転性の極めて乏しいものを含ませているのであるから、これからみても移転性の点は、独立物件性を決定する基準となるものではない。

仮に、堤体を敷地と一体として考えるとしても、堤体の価格を「土地相当ノ価格」に含ませるべきであるが、いずれにせよ、堤体部分の価格の算定については、従前主張のとおり複成式評価法を用いるべきである(民有堤の使用料相当額の算定方法に関する最高裁判所昭和五三年三月三〇日判決・民集三二巻二号三七九頁参照)。

5  堤防の文化財的価値の補償について

本件輪中堤は、控訴人の祖先が当時私人にとつて莫大な費用を投じて造成し、その後代々にわたり数多の水害に際してはその都度これを補修し維持管理してきたもので、これ(厳密にはそのうち環状堤部分)が河川附属物に認定されたのはその公の治水施設としての機能を公認された証左である。又、本件堤防は歴史上現存する唯一の輪中堤として学界からも高く評価され、愛知県教育委員会もこれを文化財に指定しようと働きかけてきたことがあり、高等学校の人文地理の教科書や入学試験問題にも採り上げられたこともあるのであつて、これらの諸点からすれば、本件輪中堤は控訴人の主観的感情からではなく、客観的に何人にも承認せられる文化財的価値を有していることは明白である。

被控訴人は、本件堤防は通常の取引の対象になり難く、取引の対象となつた場合もそれは土地としての取引しかありえず、そのなかに本件堤防の文化財的価値が財産的、経済的価値として評価されることはないと主張するが、本件堤防に対する補償は、公共的施設としての上述工作物評価と敷地評価とのほか、恰も文化財的価値を有する書画、刀剣類等が収用される場合その文化財的価値が加算されるのと同様、本件堤防についてもその文化財的価値に対する補償が加算されるべきである。

又、本件堤防の文化財的価値はその歴史、機能、形状等から社会がその価値を認めたものであるが、価値自体は輪中堤固有のもので、その物件の所有権、占用権等を有している者に帰属することは当然である。

そして、右文化財的価値の算定方法については、建設省補償基準七条の「文化財保護法等により指定された特殊な土地等の取得の場合において、この訓令によりがたいときは、その実情に応じて適正に補償するものとする。」との規定を参考としつつ、石鳥居損壊による損害賠償に関する鳥取地方裁判所昭和四七年三月一七日判決(判例時報六七三号七四頁)にも示されている複成式評価法によつてこれを算定するのが相当である。

6  請求額の変更

本件裁決変更及び補償金員請求のいずれについても、荒地補償を除いては、請求金額につき従前と変わりはない。

しかし、荒地補償については、上述の如く、その坪当り請求額を七五〇円から九四五円と増額したことに伴い、右部分及び全体の請求額に変動を生じた。これを原判決事実摘示変更の形式で示せば次のとおりである。即ち、

原判決六枚目表四行目に「七五〇円」とあるを「九四五円」と、一〇枚目表四行目に「二、五八三、七五〇円(三、四四五坪×七五〇円)とあるを「三、二五五、五二五円(三、四四五坪×九四五円)」と、同末行に「五二、〇〇四、六六二円」とあるを「五二、六七六、四三七円」と、一〇枚目裏三行目に「五二、〇〇四、六六二円」とあるを「五二、六七六、四三七円」と、同四行目に「五二、〇〇四、六六二円」とあるを「五二、六七六、四三七円」と、同五行目から六行目にかけて「四四、三七〇、九六三円」とあるを「四五、〇四二、七三八円」と各改める。

二  被控訴人の当審における主張

1  堤防敷地の補償金額について

本件堤防敷地の所有権相当額は、左記の如き各近傍類地の取引価格等を考慮すると、従前主張どおり坪当り三〇〇円が相当である。

(一) 木曽岬村の取引事例からの評価額

三重県桑名郡木曽岬村大字加路戸地先の堤防敷地の取引事例に基づいて、本件堤防敷地の価格を算定すると、左のとおり坪当り二四七円となる。

(1) 本件に参考となる堤防敷地の取引事例としては、原判決別表(一)記載の実例四件のほか、一二件の計一六件があり、これらはいずれも建設省が昭和三八年三月に坪当り二〇〇円で買収したものである。右事例地はいずれも本件堤防敷地から南方約六キロメートルの地点にあるが、本件堤防敷地と同じく、長良川と並流する木曽川下流左岸の農業地域に所在し、しかも河川改修工事の必要のために買収されたという事情があつて、いずれも本件堤防敷地と同一の需給圏内に存する適切な近傍かつ同種地の事例である。

(2) 控訴人は、右事例地は偶然地目が堤敷となつていただけで、大部分の現況は宅地、田畑や雑種地であつたものと推定され、且つ替地提供の事情が織り込まれた買収価格で通常の取引価格でないと主張する。しかし、右木曽岬村の用地取得の内容は、所有者が現に宅地、田畑の用に供している土地については交換を行つたが、現実に利用されていない原野、堤敷については右交換の対象とせず、これを買収したものである。従つて右買売価格二〇〇円は、建設省補償基準に基づき算定された一般的にも公平な金額で、多数の売主も同意しているものである。

(3) そこで、右二〇〇円につき、時点修正を施し、地域格差による補正を加えると、従前主張どおり二四七円となる(原判決別表(二)、(三)参照)。

(二) 福原地区の山林原野の取引事例からの評価額

愛知県海部郡立田村大字福原新田地先の山林、原野の取引事例に基づいて、本件堤防敷地の価格を算定すると坪当り三一四円となる。

(1) 山林原野の取引事例としては、控訴人と被控訴人間で昭和四〇年一月一八日、本件堤防敷地に近接した山林が坪当り三〇〇円、同原野が坪当り二七五円で取引された例がある。

(2) 右事例中、高額な三〇〇円につき時点修正(その変動率は原判決別表(二)に準じて算出した1.048による。)を施すと三一四円となる。

(三) 福原地区の田畑の取引事例からの評価額

愛知県海部郡立田村大字福原新田等の田畑の取引事例に基づいて、本件堤防敷地の価格を算定すると坪当り三一五円となる。

(1) 田畑の取引事例としては、一部控訴人と被控訴人間の取引を含む昭和三九年七月から同四〇年にかけての取引で、本件堤防敷地に近接した田畑が坪当り一、三〇〇円ないし一、二〇〇で取引された例がある。

(2) 右のうち一、三〇〇円について時点修正(変動率1.214)を施すと一、五七八円となる。そして、この金員から本件堤防敷地の正常な価格を算定するには、本件堤防敷地が長良川の水流に面し、直接には生産の用に供される土地ではなく、その個人的利用が制限された公共性の強い土地であつて、私人間の取引の対象となることも稀であることからみて大幅な減価修正が必要であるところ、道路、公園の如き公共目的に供されている土地評価の場合には一般に八〇パーセントの減価率が適用されているから、これを類推適用すると、右価格は三一五円となる。

(四) 西川地区の取引事例からの評価額

三重県桑名郡長島町大字西川地区の原野の取引事例に基づいて、本件堤防敷地の価格を算定すると坪当り二五〇円となる。

(1) 本件堤防敷地に近接する西川地区堤外の原野一二筆につき、昭和四一年三月一日坪当り二〇〇円で買収した例がある。

(2) 右金額について時点修正(変動率1.251)を施すと二五〇円となる。

(五) なお、本件堤防敷地の補償金額につき、不動産鑑定士竹内正毅はこれを坪当り三三〇円とし(乙第四九号証の一)、同伊部正城は坪当り三九三円としている(同号証の二)。

(六) 以上によると、本件堤防敷地の価格につき、参考事例ないし評価は坪当り二四七円から三九三円の間の数値を示すところ、本件諸般の事情を考慮すると、本件堤防敷地の補償額は従前どおりの坪当り三〇〇円とするのが相当である。

右に対し、控訴人は他の事例を挙げて異なる金額を主張するので、以下、これについて述べる。

(七) 用排水施設敷地(元水車小屋敷地)の取引事例について

右敷地を農地類似の土地とし、その取引価格を本件の参考とするのは相当でない。即ち、

(1) 右取引事例の土地は、そもそも宅地又は準宅地であつて農地類似の土地ではない。現に右土地の買収台帳によれば、現況調査・地目宅地とあり、又、中央信託銀行株式会社名古屋支店作成の鑑定評価書によれば、右土地は現況準宅地とされている。

(2) 又、右取引事例の売買価格坪当り二、五〇〇円は、売買当事者間でも宅地と認識して算定したものである。当時、建設省は農地については坪当り一、三〇〇円、宅地一等級については二、八〇〇円で買収しており、本件については折衝の結果、宅地二等級の価格として合意したもので、農地類似の土地としてなら、右一、三〇〇円前後の価格になつた筈である。

(八) 松之木地区の取引事例について

右事例は、本件堤防敷地の存する福原地区とは位置、土地柄が異なり、長良川、木曽川の水害の危険性の程度も違い、且つその価格は三重県開発公社が保養所建設を目的として温泉湧出による観光開発の利益を見込んだ買進み価格で客観的な取引価格とはいえない。

(九) 水資源開発公団の取引事例について

右事例は坪当り二一、四五〇円(一平方メートル当り六、五〇〇円)であつて、これは当時の福原地区の標準価格からみると極端に高い価格でこれを基準とすることは適当ではない。即ち、右取引が行われた昭和五三年当時の立田村における標準的な取引価格は一平方メートル当り四、〇〇〇円から四、三〇〇円であつて、これからみると右は客観的な取引価格とはいえない。なお、控訴人主張の定額法、定率法により算出された別表地価変動計算額は、本件福原地区の適正な地価上昇を示したものではない。即ち、この試算額は、昭和五三年一二月の福原地区内の取引事例(坪当り二一、四五〇円)と被控訴人主張(三)の取引事例等を比較して、その時点差における一年間の変動額ないし変動率を求めて裁決時の価格を算出しているが、右控訴人主張にかかる昭和五三年一二月当時の取引価格坪当り二一、四五〇円がそもそも極端に高い価格であることは前述のとおりであり、これに基づき算出された右変動試算額なるものと、おのずから高い地価変動を示すもので、本件福原地区の適正な地価上昇の動向を示したものではない。

2  山林・原野の補償金額について

本件山林・原野の所有権相当額は、近傍類地の取引価格等を考慮すると、従前主張どおり三〇〇円が相当である。

(一) 福原地区の山林原野の取引事例からの評価額

前記1の(二)のとおり昭和四〇年福原地区の山林が坪当り三〇〇円、同原野が二七五円で取引されているが、本件山林原野は長良川の水流に沿つた堤外地であるから、右事例の原野に近いものである。そこで、右原野の二七五円につき時点修正(変動率1.048)を施すと二八八円となる。

(二) 福原地区の田畑の取引事例からの評価額

前記1の(三)のとおり、右地区の取引事例一、三〇〇円につき時点修正すると一、五七八円となるが、本件山林原野は堤外地であるから田畑に比較し八〇パーセントの減価をするのが相当であり、これに従つて算定すると三一五円となる。

(三) 西川地区の原野の取引事例からの評価額

前記1の(四)のとおり、右地区の取引事例に基づいて算定すると二五〇円となる。

(四) 以上の各金額を総合考慮すると、坪当り三〇〇円が相当である(即ち、本件については、堤防敷地と山林・原野の補償額は結局同一となるべきものである。)。

3  荒地の補償金額について

本件荒地の所有権相当額は零である。即ち、旧河川法施行規程九条及び一〇条によれば、河川関係につき占用が許可されず又は禁止されたときに相当の補償金が下付される対象は「河川ノ敷地」にして「荒地ニアラサルモノ」に限られているから、本件荒地についての補償はありえない。

仮に本件荒地についても補償が必要であるとしても、右荒地はその大部分が長良川の流水下に没しており、ただ干潮時において砂地が僅かに露出するに過ぎないような土地であることからすると、右補償額は本件裁決で認定された坪当り一六〇円を超えることはないというべきである。

4  堤防の工作物価値の補償について

控訴人は、前記堤防敷地の上に存する堤体部分につき、旧河川法施行規程一〇条の補償の対象であり、又明治三五年土木局長通牒にいう地上物件に該当すると主張する。

しかし、右施行規程九条、一〇条によれば、河川関係で占用が許可されず又は禁止されたときの「相当ノ補償金」下付の対象になるのは「河川ノ敷地」(で且つ「荒地ニアラサルモノ」)に限られており、この規定を河川附属物と認定された「堤防」に適用すると、「堤防の敷地」については「河川ノ敷地」と同様に「相当ノ補償金」が下付されるのに対し、「堤防」の本体、即ち「堤体」については、たとえその占用が不許可又は禁止のときにも「相当ノ補償金」は下付されないのであつて、ただ、「堤体」の上又はその中を利用しようとする場合は、堤体を通してその下の敷地を占用する関係になるので、「堤防の敷地」が右九条に所定の必要的占用許可の目的物となり、その占用が不許可又は禁止のときには右一〇条に所定の補償金が下付されるにすぎないと解すべきである(それ故、「愛知県河川管理規則」(昭和二九年愛知県規則第五九号)一七条も、右施行規程九条の許可にかかる河川附属物については「設定地占用」の語を用い、従前の所有者以外の者に対する場合の「河川附属物占用」の用語と区別しているのである。)。

以上により、前記局長通牒にいう「地上ニ現存スル物件」とは、右施行規程九条及び一〇条に所定の占用の目的物が「河川ノ敷地」である場合には、旧所有者等がその敷地上に所有する工作物等をいうが、河川の附属物たる「堤防の敷地」との関係では、堤体の私権も消滅しているので、堤体を所有するために堤体を占用するということはありえず、堤体の上文はその中を利用するためにその堤体を通して下の敷地の占用が許可される関係にあるのであるから、いわばその中間にある堤体は、右「物件」に該当しない。

又、堤防は土地の定着物でもないし、移転可能な物件でもないから補償を要しないことは既述のとおりであつて、即ち堤防の堤体と敷地とは一体不可分であり、堤体は土地収用法六条の「土地に定着する物件」から除外されるし又、土地から分離して移転することが社会通念上不可能であることから土地収用法七七条の物件にも該当せず、即ち堤体は単にその敷地に属するものにすぎないのである。

ところで、一般補償基準七条一項は「取得する土地(土地の附加物を含む)に対しては、正常な取引価格をもつて補償するものとする。」と規定するが、このように土地に附加物を含ませた趣旨は、土地と一体となつて効用を有する附加物の価値が一般に土地そのものの価値に反映し、その土地の価値の中に増価要因ないし減価要因として包含されているものであるから、それを土地の価格とは別に補償する必要のないことを明らかにしたものである。そして、本件堤防の堤体は右堤防敷地にとつて、増価要因か否かをみるに、元来本件堤防は堤内の土地を水害から防護する目的で築造されたものであつて、堤体はその敷地自体の効用を増大させるために附加されたものではない。即ち、右堤防の敷地は、その上に堤体が存在しなければ平担地として、場合によつては原野か荒地ほどの経済的効用があつたかもしれないが、その上に堤体が存在することによりその効用も無くなり、堤体の上部を利用するにしても原野・荒地の効用を上廻るものではない(その意味で堤体は、敷地にとつては、むしろ減価要因というべきである。)。他方、堤内地について見れば、本件堤防がなければ、その堤内地は水害から防護されるべき農業地域として形成されなかつたであろうことは明白である。従つて、本件堤防に投下された資本は、堤内地が水害から防護されるべき農業地域であることに転化され尽しており、堤防自体には何ら増価要因が残留していないから、堤体がその敷地或はこれと一体のものとしての本件堤防の取引価格を高めているとは認められない。

なお、この点に関し控訴人は、本件堤防の価値が堤内農地の価値上昇に転化されているとするなら、堤内農地は当然堤外農地より高価格でなければならないが、被控訴人自身、堤内堤外を問わず同一単価で買収している旨主張するが、被控訴人が同一単価で買収したのは、たまたま堤外の田畑が長良川の水流に面しておらず長良川の水面より高い土地で、冠水の危険が極めて少なく田畑として耕作され農産物の収穫を得ていた土地であつたこと、並びに買収が同一時期に堤内、堤外を問わず相当数行われ、同一所有者が堤内と堤外に田畑を所有する場合もあり、価格差をつけることが買収協議を困難にし長期化するおそれがあつたことのためで、前記被控訴人の化体説の主張となんら矛盾するものではない。

仮に、本件輪中堤がその敷地とは別個に補償の対象となるとしても、被控訴人によつてより強固な新堤防が築造されたため、旧堤防はその機能を完全に失つたのであるから、その補償については、公共事業補償基準一三条二項の規定により、敷地のみの補償で足りるものと解すべきである。

5  堤防の文化的価値の補償について

そもそも控訴人が右補償を求める実定法上の根拠は、現行河川法七六条一項又は土地収用法八八条にあると思われるが、右各法条に所定の「通常生ずべき又は通常受ける損失」とは、経済的、財産的な損失を意味すると解すべきであるから、控訴人の請求は既にこの点において失当であるが、仮に右各法条に経済的損失以外の文化財的損失の如きものが含まれるとしても、本件輪中堤にそのような価値、少くとも建設省補償基準七条に規定されるような高度の文化財的価値の認められないことは従前主張のとおりである。

仮に本件輪中堤に何らかの文化財的価値があるとしても、右価値は一私人に対する私的な価値ではなく、一般国民全体にとつての価値であり、その利益は一般国民がこれを享受するものであつて、何人といえどもこれを排他的、独占的に享受しうるものではない。従つて本件堤防の文化的価値は特定の個人に帰属するものではないのである。

三  新たな証拠関係〈省略〉

理由

一本件については後記のとおり土地収用法が類推適用されるところ、控訴人は、同法一三三条一項に基づき本件損失補償の訴を提起しているので、まず右訴の性質について考えるに、右訴がその実質において行政庁たる愛知県収用委員会の裁決を争う趣旨、即ち抗告訴訟の面を有することは否定できないけれども、右一三三条の二項が「起業者」を被告とすべき旨定めていること、更に本質的には、土地収用に伴う損失補償の請求権は元来憲法二九条三項に基づき客観的に生じているとみられること並びに損失の補償は主として被収用者個人と起業者との関係に属することであつて公益性に乏しいことを考えると、右訴は、被収用者が起業者を相手どり、右既に生じている補償金の確認ないしその給付を求める当事者訴訟(行政事件訴訟法四条)と解するのが相当である。

そうするもと、控訴人の本件訴のうち、愛知県収用委員会の裁決の変更を求める部分は不適法たるを免れないから、当裁判所は職権により、右の部分に関する控訴人の訴を却下すべきものと考える。

よつて、以下、控訴人の補償金支払の請求について判断する。

二本件堤防部分が堤防敷、次いで河川附属物に、その余の本件土地が河川敷に各認定されて私権が消滅したが、控訴人はかねてこれらの土地の占用許可を受けてきたこと、しかるに昭和四二年一二月二〇日右許可が取消されたこと、その他当事者間に争いがない事実は、原判決理由第一項判示のとおりであるから、これを引用する。

三しかるところ、右占用許可の取消処分による損失補償については、憲法二九条三項を基本としつつ、具体的には現行河川法七六条一項により「通常生ずべき損失」を補償すべきところ、右河川法施行法一九条によれば、右補償についてはなお旧河川法施行規程九条及び一〇条が適用される結果、同規程一〇条により「相当ノ補償金」を下付すべきこととなる。

そして、右「相当ノ補償金」とは、後記の文化財的価値の如き特殊なものの補償を除けば、一般的には土地相当の価格の補償をいうもの(明治三五年土木局長通牒参照)と考えるべきところ、右相当の価格の算定方法については、現行河川法七六条二項の趣旨に則り本件の如き場合に類推適用せられる土地収用法七一条及び七二条(現行土地収用法七一条に該当)により、前記裁決時における近傍類地の取引価格等を参考として、その正常な客観的価格を定めるべきである(換言すれば、控訴人は本件土地につき占用許可を有するものであつて、所有権を有するものではないが、本件損失補償の関係では、上記のようにこれを所有者と同視し、その所有権価格につき、右のような見地からその正常価格を算定して、これを補償すべきものである。)。

四そこで、まず、本件堤防を中心とする本件土地の位置、沿革、形状、機能等をみるに、これについての当裁出所の認定は、原判決理由第三項2冒頭に掲記の各証拠に、〈証拠〉を総合すると、原判決理由第三項2に判示のとおりであるから、これを引用する(補正〈省略〉)。

五 本件輪中堤と敷地との関係(控訴人主張の工作物価値に対する判断を含む。)について

1本件堤防につき、その敷地部分が補償の対象となることについては当事者間に異論はないが、その堤体部分については、控訴人が、その補償対象たることを前提に、独立物件性(控訴人のいう工作物性)を主張し、仮に右独立性がないとしても敷地に対する増価要因であると主張するのに対し、被控訴人は、右をすべて争うので、本件堤防の補償金額の判断に入る前に、まず右の諸点を検討する。

2ところで、憲法二九条三項は、私有財産を収用するには「正当な補償」のあることを要するとし、現行河川法七六条一項は、占用許可を取消す際は「通常生ずべき損失」を補償するものとしているのであつて、既にこれからみても堤防につきその堤体を補償対象から除外すべき合理的理由をたやすく見出し難いのみならず、これを更に実定法に則してみても、本件には上述のとおり旧河川法施行規程一〇条及び九条が適用されるところ、右各条における補償対象は一応「河川ノ敷地」となつており、そして旧河川法四条によれば本件の如き堤防はすべて河川に関する規程に従うこととなつていることは被控訴人主張のとおりであるけれども、水流と敷地とより成る河川と、堤体と敷地より成る堤防との性質の相違に着目すれば、右堤防に適用せられる場合の右規程一〇条の補償対象は、その敷地に限定されず、その堤体をも含むことは明らかというべきであり、従つて、堤体部分は補償対象性を有しないとの被控訴人の主張は理由がない。

3次に、右堤体の独立物件性について考えるに、控訴人は、これを認めるべき根拠として、まず明治三五年土木局長通牒を挙げるが、右にいう「地上ニ現存スル物件」とは旧河川法一七条所定の工作物をいうものであつて、本件堤体はこれに該らないと解すべきである(その詳細は原判決三三枚目裏六行目から同三四枚目表四行目までのとおりであるから、これを引用する。)。

更に控訴人は、土地収用法六条の定着物件又は同法七七条の地上物件に該ると主張するが、右各「物件」の概念は実質的に同一と解されるところ、同法が、その収用対象として、土地(二条)及び土地の構成要素たる土石類(七条)の外、特に地上の物件(右六条、七七条や三五条など)を挙げ、且つ右七七条の物件に関し、同物件が移転可能性を有すること(移転困難な場合を含むが、移転不能の場合は含まない。)を前提とする同条以下の規定を設けていること、その他同法の全体系に照らすと、右にいう「物件」とは、土地に附着してはいるが、なお独立して物権の支配に服し、移転可能性をも有する物を指すと解せられるから、これを、上記第四項で判示したような本件堤防の物理的状況や機能等と対比すると、本件堤防は未だ右「物件」に該当せず、堤体は、その敷地と共に土地収用法二条にいう「土地」を成すもの、即ち本件堤体はいわゆる附加物と解するのが相当である。従つて、控訴人の右主張は理由がない。

4以上のとおりであるから、本件堤防については、その敷地と堤体とはこれを一体として補償対象とすべきところ(前掲一般補償基準も、その第七条において、補償対象につき「取得する土地(土地の附加物を含む。)」としている。)、右堤体部分につき、控訴人はこれを敷地の増価要因、被控訴人は減価要因と主張するので考えるに、右はいずれも堤防につきこれを敷地と堤体とに分解する発想に立つている点に根本的な問題があるのみならず、控訴人は、堤体部分につき、独立物件たる場合と同じく、複成式評価法によつてこれを評価・加算すべきであるとし、柳瀬良幹の鑑定書(甲第五三号証の二)及び同人の当審証言もこれに添うものであるが、堤体の独立物件性が認められない以上、右評価法による価格を加算すべき合理性に乏しく(なお控訴人引用の最高裁判所昭和五三年三月三〇日判決は本件に適切でない。)、又被控訴人は、敷地にとつて減価要因たることを主張するところ、確かに敷地取引ないし敷地利用の見地のみからすると、堤体部分は経済的、社会的に負因となる場合が多いことは考えられるが、しかし、これを堤防収用による損失補償の見地からみると、右補償については元来憲法二九条三項により正当な補償がなされるべきところ、そのためには、当該被収用物件について、その収用の前後を通じ同価値の補償がなされるべきである(最高裁判所昭和四八年一〇月一八日判決・民集二七巻九号一二一〇頁)から、本件の如く敷地と堤体とが一体となつて形成されている堤防の如き物については、特段の事情のない限り、正しく当該堤防自体としてその全体につき、可能な限りこれに類似する物件ないし施設の取引事例等を参考としてその客観的価格を算定すべく、即ち、堤体は、敷地に対し、増価、減価いずれの要因でもないというべきである。

5なお被控訴人は、堤防価値は堤内地に化体されているというが、その理由のみをもつて堤防自体の補償を不要とする合理的根拠はないものというべく、又被控訴人は、前掲公共事業補償基準一三条二項を引用し、本件の場合、新堤防の建設により旧堤防の有していた機能は完全に再現された(むしろそれ以上である)から、右旧堤防については、これを廃止しても公益上の支障が生じないのみならず、社会通念上その敷地のみについて補償するのが妥当であると主張するところ、確かに本件については新堤防により機能が再現され、旧堤防を廃止しても公益上支障の生じないことは認められるが、しかし、損失補償なるものが上述の如く憲法に直接淵源を発するものであつて、その補償は前記の如く同等価値を本則とし、しかも本件堤防の如く長年月にわたり社会的経済的に多大の効用を発揮してきたような物件については、これを収用することは当該収用部分につき被収用者に対し特別の犠牲を強いるものとし、その敷地のみならず、その堤体をも含めた堤防全体につき、その補償がなされるのが社会通念上妥当であると解すべきである。従つて、被控訴人の右各主張はいずれも採用することができない。

六  本件土地の補償金額(堤防の文化財的価値の補償を除く。)

1 本件堤防(略図C部分)の補償金額について

本件堤防については、叙上のとおり、これを堤体とも一体として補償すべきものであるところ、右堤防は土地収用法三条二号の施設であるから、右は公共施設というべきものである(なお、公共事業補償基準三条参照。)

そこで、本件各参考事例のうち、公共施設性のある事例をみるに、控訴人と被控訴人間で昭和四〇年一月一八日になされた用排水施設敷地の取引事例(坪二、五〇〇円)が参考となる。蓋し、右取引事例は、その実質面から見るに公共施設性を含んだ土地として評価されており、その意味で公共施設たる本件堤防と共通するところがあるのみならず、場所的にも接着し、又時期的にもさほど離れていないからである。

しかして、右排水施設敷地の具体的状況についての当裁判所の認定・判断は、原判決二六枚目表末行より同裏四行目までに示された争いのない事実及び各証拠を総合すると、原判決二六枚目裏四行目の「同三八年一二月」から同二七枚目裏終りより三行目までに判示のとおりであるから、これを引用する(但し、原判決二七枚目表初行から二行目にかけて「土地上に施設が付着しているという点で」とあるを「本件堤防と同様、公益的な用排水施設の敷地であるという点で」と訂正する。)。

そして、右両者の類似性からすると、右取引事例の坪当り二、五〇〇円という金額を減額する必要はなく、むしろ右事例が、公共施設性を加味しているとはいえその敷地のみの取引(成立に争いのない甲第四〇号証参照)であるのに対し、本件の場合は、堤体という公共施設をも包摂した堤防自体の補償であることにかんがみると、右事例の価格よりも増額することも考えられるが、本件全立証によるも、右の差異が果して如何程に評価さるべきかにつき、これを的確に証する証拠がないので、本件堤防の当時の価格としては、右坪当り二、五〇〇円をもつて相当とすべきである(なお右につき、堤防という性格のゆえに一般的に右価格を増減すべきでないことは先に述べたとおりである。)。

但し、右取引事例の時期と本件裁決時とにズレがあるので、右取引時期(昭和四〇年一月一八日)から本件裁決時(昭和四二年一二月二〇日)までの約二年一一か月間の時点修正はこれを施す必要があるところ、本件全立証によるも堤防としての価格指数を示す証拠がないので、右取引事例が用排水路、水田、輪中堤の一部、水車小屋等を含んで混然一体となつた農地類似の土地という面を多分にもつことから、〈証拠〉により、原判決添付別表(二)と同一の計算方法により算出された時点修正率1.232を用いるのが相当であるから、これによつて計算すると右は坪当り三、〇八〇円(2,500円×1.232)となる。従つて、右価格をもつて、本件裁決時における本件堤防3.3平方メートル(一坪)当りの価格と認めるべきである。よつて、これに基づき計算すると、本件堤防の所有権相当額は一三、六五〇、五六〇円(四、四三二坪×三、〇八〇円)となる。

もつとも、控訴人は、上記松之木地区の取引事例(坪当り五、〇〇〇円)或は水資源開発公団との取引事例(坪当り二一、四五〇円)を参考にするよう主張するが、これらはいずれも堤防敷地のみの補償の参考事例として主張されているのみならず、前者については、松之木地区と本件福原地区とは土地柄も交通事情も異なり、しかもその価格は開発利益を見込んだ特殊価格で、本件の適切な参考となりえないものであつて、その詳細は、原判決二二枚目表終りより四行目から同二四枚目表四行目「適切なものではない。」までに説示のとおりであるから、これを引用する(但し、原判決二三枚目裏五行目に「1.8キロメートル」とあるを「約4.9キロメートル」と、同六行目に「0.7キロメートル」とあるを「約3.2キロメートル」と各訂正する。)。又、後者の事例については、右取引が行われたのは昭和五三年一二月(前掲甲第五六号証)であるが、右取引前後の立田村における標準的な取引価格をみるに、〈証拠〉を総合すると、昭和五三年ないし五四年における立田村の田の価格の水準は一平方メートル当り四、〇〇〇円から四、三〇〇円程度であると推認されるところ、右事例のそれは六、五〇〇円であるから、たとえ右事例が公共機関との取引であるとしても、直ちにそれが客観的な取引価格といえるかの疑問が存し、採用することができない。

又、被控訴人は(一)木曽岬村の堤防敷地の取引事例(坪二〇〇円)、(二)福原地区の山林原野の取引事例(坪三〇〇円)、(三)福原地区の田畑の取引事例(坪一、三〇〇円)、(四)西川地区の原野の取引事例(坪二〇〇円)並びに鑑定(五)評価書(前掲乙第四九号証の一・二、坪三三〇円及び三九三円)を挙げ、右(一)ないし(四)につき時点修正等を行つたうえ、被控訴人主張の補償額が相当である旨を主張するが、これらもまた堤防敷地のみの補償に着眼した参考事例であるのみならず、(一)については、木曽岬村が本件堤防より約六キロメートルも離れていることは被控訴入の自認するところであり、この距離差からして本件堤防の近傍といえるかは疑問であり、更に、〈証拠〉を総合すると、右取引事例の各土地は公簿上堤敷というだけで、その所在場所、形状等が必ずしも明確ではなく、果して本件堤防と物件的同一性ないし類似性があるかは疑問である。(二)については、〈証拠〉によつても、その地番、所在場所の物定が必ずしも十分とはいえず、却つて〈証拠〉によれば、所謂「はんつき料」を授受して取引された可能性も推認されるところである。(三)については、〈証拠〉によれば、右取引は改修工事により生じた廃川敷地を低額で払下げを受ける約定のもとに取引に応じたことが推認されるほか、堤防敷地については収益性が低いということから直ちに私道の場合の減価率八〇パーセントもの減額をして評価するのは、取引に無関係で収益性に乏しい公共施設としての役割、機能を全く考慮していないのではないかという意味で採用し難い。(四)については、原野の事例が、本件堤防にとつて如何程参考になるのかに疑問がある。最後に(五)については、まず竹内鑑定書(乙第四九号証の一)に関しては、堤防敷地と山林原野とを同一視していること及び減価率を八〇パーセントとしていること等に対し、前述と同じく堤防の公共施設としての機能・役割を没却しているのではないかという意味で、又、伊部鑑定書(同号証の二)は、昭和五五年八月二二日の鑑定評価に際しての条件に「現況を所与とする。なお現況地形につき価格時点と大きな格差はないものとした。」とあるが、価格時点の昭和四二年一二月当時は本件堤防が存在していた扱いであるから、鑑定時点で当然その存在を前提に評価する必要があるところ、堤防があつたことを考慮しないで価格を算定したことが認められる点で、それぞれ採用し難いものである。

以上の理由により、控訴人及び被控訴人の主張する右各取引事例等は、いずれも本件堤防の所有権相当額ないし参考額としては、上記用排水施設の事例に比して適切なものとはいえない。なお、〈証拠〉によれば、本件堤防敷地を坪当りそれぞれ三〇〇円及び一、六一七円と評価したことが認められるが、右評価はいずれも本件堤防の公共性を考慮していない点で採用するに由なきものである。

2 本件山林・原野(略図F・G部分)の補償金額について

控訴人は、右山林・原野の所有権相当額は坪当り一、五〇〇円であると主張するが、右主張を認めるに足りる的確な証拠はない。

又、被控訴人は、(一)福原地区の山林原野の取引事例(坪二七五円)、(二)福原地区の田畑の取引事例(坪一、三〇〇円)、(三)西川地区の原野の取引事例(坪二〇〇円)を挙げ、これらに時点修正等を施したうえ被控訴人主張の補償額が相当である旨を主張するが、右のいずれについても、上記と同様の理由で及び後記の判示と対比して採用することができず、〈証拠〉のうち山林原野に関する部分も、右と同様採用することができない。なお、〈証拠〉によれば、本件山林原野を坪当り一、一五〇円、三〇〇円、二五〇円とそれぞれ評価したことが認められるが、右一、一五〇円については、その前提となる標準価格設定の経緯が、〈証拠〉を総合するも今一歩明確でないところから、又坪三〇〇円の評価については堤防敷地と同一の評価をしている点で、更に坪二五〇円の評価については原審証人日紫喜昇の証言によるも世評価格の根拠並びに減価率が必ずしも明確でない点から、いずれも採りえないものである。

ところで、本件山林原野の位置、状況等については、当審で提出された〈証拠〉を考慮に入れても、なお原判決三一枚目表二行目から七行目の「ことができる。」までに判示のとおりであるから、これを引用する(但し右三一枚目表三行目に「前記二」とあるを「前記2」と訂正する。)。

そして当裁判所は、本件山林・原野の価格について、本件堤防の評価がその公共施設性を中心としたものであるのに比し、右山林原野は諸要因においてこれに劣ること、耕地としての収益性にも乏しいことなど諸般の事情を総合勘案し、堤防のそれに対する減価率を山林及び原野を通じ六割とするのが相当であると思料する。従つて、本件裁決時における本件山林・原野の価格はいずれも3.3平方メートル(一坪)当り一、二三二円(3,080円×0.4)となるので、これに基づき計算すると、本件山林の所有権相当額は七四二、八九六円(六〇三坪×一、二三二円)、本件原野のそれは四、七〇二、五四四円(三、八一七坪×一、二三二円)となる。

3 本件荒地(略図H1、2部分)の補償金額について

控訴人は、右荒地の所有権相当額は坪当り九四五円と主張するが、右主張を認めるに足る的確な証拠はない。又、被控訴人は、右荒地はそもそも補償の対象とならず、仮になるとしても坪当り一六〇円を上廻ることはない旨主張する。しかし、対象性を欠くとの点については、かねて本件河川の管理者自身が当該土地部分につき、旧河川法施行規程九条にいう荒地とは認定せず、河川の敷地として、本件事業で占用許可が取消されるまで控訴人の占用を許可してきた事実があり、又右施行規程九条にいう荒地とは土地として利用することができないような形状の土地という意味であつて、経済的価値の大小とは関係がないと解すべきであるから、いずれにしても右主張は失当である。

ところで、本件荒地の位置、状況については、当審で提出・援用された〈証拠〉を総合するも、原判決三二枚目裏一行目から七行目「低いものということができる。」までに判示のとおりであるから、これを引用する(但し、右三二枚目裏四行目に「前記二」とあるを「前記2」と訂正し、同五行目に「本件荒地が」とある次に「満潮時にはほぼ全面的に冠水し、干潮時には砂丘様の砂地が露出する」と加入する。)。

そして当裁判所は、本件荒地の価格について、本件山林原野より諸要因において劣ること、その利用価値が相当限定されることなどを総合考慮し、山林原野のそれに対する減価率を五割とするのが相当であると思料する。従つて、本件裁決時における本件荒地の価格は3.3平方メートル(一坪)当り六一六円(1,232円×0.5)となるので、これに基づき計算すると、本件荒地の所有権相当額は二、一二二、一二〇円(三、四四五坪×六一六円)となる。なお附言するに、〈証拠〉によれば、不動産鑑定士近藤信衛は本件荒地を坪当り346.5円と評価したことが認められるが、前記山林原野の箇所で述べたとおり、その前提となる標準価格につき疑問が存するところから採用できない。

七  輪中堤の文化財的価値の補償について

1控訴人は、本件輪中堤には文化財的価値があるとしてその補償をも求めるところ、上記のように本件補償は、現行河川法七六条一項の「通常生ずべき損失」につき旧河川法施行規程一〇条により「相当ノ補償金」を交付することによつてなされるのであるが、その具体的内容については、専ら土地利用法の定めるところによつてこれを決すべきである。

そこで、土地収用法をみるに、同法は、土地収用に伴う損失補償につき、一般的には土地相当の価格をもつて補償することを原則としている(前記七二条等)が、別に八八条をもつて、「(右の外)土地を収用することに因つて土地所有者等が通常受ける損失」をも補償すべきものと定めているところ、そもそも公のため土地を収用する際の補償については、古くは当該土地相当の価格の補償のみで足れりとされていたが、明治三三年制定の旧土地収用法(同年法律第二九号)以後「その他通常受くべき損失の補償」の規定が設けられるようになり、前者のみの場合の欠陥を後者で補うに至つたことにかんがみても、右は、損失補償の対象を、「土地相当の価格」等の純粋な客観的・経済的なもの(即ち客観的利用価値)のみに限定せず、実情に応じ、たとえ特殊な価値で、元来経済的価値のないものでも広く客観性を有するものは、これを金銭に換算評価して補償するとの趣旨であると解すべきである。

従つて、本件輪中堤についても、それが、堤防自体の価値のほか、広く客観性ある文化財的価値をも帯有するとすれば、それに応じた適正妥当な補償がなされるべきである(それが憲法二九条三項の「正当な補償」の理念に合致する所以でもあり、又建設省補償基準七条が「文化財保護法等により指定された特殊な土地等の取得……の場合において、この訓令の規定によりがたいときは、その実情に応じて適正に補償するものとする。」と定めているのも右の趣旨に立脚するものと解せられる)。

2そこで、まず、右見地からみた本件輪中堤の状況をみるに、原判決三七枚目表七行目(但し同所に「前記二」とあるは「前記三の2」と訂正する。)より同裏初行までに掲記の各証拠に、当審において提出・援用せられた〈証拠〉を総合すると、本件輪中堤の形成過程、その水防機能、その他の一般的特質は、原判決三七枚目裏初行から同三九枚目表六行目までに判示のとおりであるから、これを引用する。

3よって、右の事実関係に基づき、本件輪中堤の文化財的価値及びその客観性につき判断するに、同堤は控訴人方のもと私有堤(その後環状堤の大部分は占用堤)であるが、単に堤内の私有地を守り或いは単に通行の用に供する一堤防というにとどまるのではなく、多年いわゆる三川合流等による水害に悩まされ続けてきた美濃地方にあつて、その環状堤部分は遠く江戸時代の初期から(突出堤部分でも明治時代の中期から)、水害より村落共同体を守つてきた輪中堤の典型の一つとして、長くその効用・機能を発揮してきたもので、その特異な形状に関する築堤技術と共に教科書等にも採りあげられてきた貴重な公共的施設であるから、その歴史的、社会的、学術的価値、即ち文化財的価値は極めて高く、しかも、それは、例えば祖先伝来の土地といつた如き個人の主観的価値感情の域にとどまらず、広く社会より承認され、社会的にオーソライズされた客観的価値にまで高まつているというべきである。

しかして、右堤は、一面右のように文化的・客観的な価値を内在していると同時に、他面それはまた控訴人がもと所有権(収用時は占用権等)を有する物であるから、控訴人は、堤防自体のほか、かかる価値の保有者でもあると解すべきものであるところ、本件処分は、右占用許可の取消しであり、しかも右輪中堤自体のとりこわしをも意味するものであるから、控訴人は、これにより、右価値の保有権ないし保有利益を失うものというべく、しかして右価値は上記の如く一時的・臨時的なものではないから、右権利・利益の喪失は、本件処分と相当因果関係の範囲内にあるものというべきであり、従つて右価値についての損失は、前記土地収用法八八条にいう「(権利者が)通常受ける損失」に該当するというべきである。

なお被控訴人は、右の如く別途補償を要する文化財的価値は文化財保護法の指定対象たるものに限ると主張するが、同法の目的とするところと損失補償制度の目的とはその意義・領域を異にするから、右主張は当をえざるものであり、更に被控訴人は、本件文化財的価値の収用は受忍の限度内であると主張するところ、確かに本件土地収用・新堤防築造事業が高度の公益性を有することはいうまでもないが、他方本件輪中堤もまた叙上の如く非一般的な特別の公共的価値を有していたのであるから、これらを彼我総合すると、本件については、いわば公益相互の調節の見地から、収用部分につき右価値の補償を行うのが、損失補償制度の基本理念たる公平の趣旨によく適うものと解するのが相当である。従つて、右被控訴人の主張もまた採用することができない。

4よつて、右文化財的価値の補償金額につき考えるに、控訴人はこれを複成式評価法をもつて算定すべきであると主張するが、そもそも右方法は元来経済的価値の算定に関するものであるのみならず、控訴人の右主張は本件堤防(堤体)の独立物件性を前提とするものであつて、叙上判示のところと前提を異にするうえ、本件堤防は再建の要のないものであるから、この意味でも妥当性のある方法とはいい難い(なお、右控訴人の主張に添う原審鑑定人原昭午及び安藤万寿男の各鑑定の結果は、既に右と同様の点において採用し難く、又控訴人引用の鳥取地方裁判所昭和四七年三月一七日判決は、不法行為による損害賠償に関するものであつて本件に適切でない。)。

そこで、右補償金額の算定につき、前記建設省補償基準七条の「特殊な土地(については)、その実情に応じて適正に補償する」との趣旨を参酌しつつこれを考えるに、元来文化財的価値なるものは金銭的価値を本体とするものではなく、その額の多寡は必ずしも本質的事項でないことに思いを致し、更に文化財的価値というも物を離れて存在するのではなく、物に内在して存することをも考えると、右金額は、当該物件の客観的価額を基とし、これに右の諸点をふまえた社会通念により相当と認める一定割合を乗じて得た額とするのが相当である。

そして当裁判所は、本件輪中堤の上記の如き文化財性の内容、これと対比すべき本件事業の公益性、更に文化財的価値と金銭的評価との上記の如き関係、その他本件に顕われた一切の事情を総合勘案すると、本件の場合にあつては、右の割合は、物件価格の一〇分の一とするのが社会通念上相当と解する。よつて、本件堤防の文化財的価値の補償金額は、前記堤防の所有権相当価格一三、六五〇、五六〇円の約一割に該る一三六万円とするのが相当である。

八以上各判示したところに基づき、本件土地の占用許可取消処分により控訴人の受くべき損失補償額を算出すると、

堤防 一三、六五〇、五六〇円

山林  七四二、八九六円

原野  四、七〇二、五四四円

荒野  二、一二二、一二〇円

文化財的価値一、三六〇、〇〇〇円

合計  二二、五七八、一二〇円となる。

九以上の次第であるから、本件占用許可取消処分による損失補償額は、右八において判示したとおり合計二二、五七八、一二〇円であるところ、本件裁決における損失補償額七、六三三、六九九円を既に受領したことは控訴人の自認するところであるから、控訴人の金員請求は、被控訴人に対し、上記認定の損失補償額から既に受領ずみの右金額を差し引いた一四、九四四、四二一円、およびこれに対する本件補償時期たる昭和四二年一二月二八日の翌日より完済に至るまで民法所定年五分の割合による金員の支払を求める限度において正当であるからこれを認容し、その余の金員請求は失当として棄却すべく、なお裁決変更の訴えはこれを却下すべきである。

よつて、これと異なる原判決を右のとおり変更し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九六条、九二条を適用して主文のとおり判決する。

なお仮執行の宣言は、その必要がないものと認めるのでこれを付さない。

(小谷卓男 寺本栄一 三関幸男)

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